【お雑煮】
「お雑煮ってなんだか薄くてあんまりおいしくないです~。」
いつもの味噌汁のような味を思っていたのだろうツヴァイが二口ほど食べて不満を漏らす。それを隣に座っていたアインスが厳しい目つきで戒めた。
「おめでたい席に主が出し下さったものに不満を言ってはいかんぞ。」
「あはは、今年のは澄し汁にしたから余計に味が薄いのかもしれんなぁ。来年は味噌使おか。」
「それが良いです!」
「全く……。」
自分の意見を自重する気などさらさら無いツヴァイにため息をつきつつ、アインスは箸を進めた。ほんのりカツオの香るこの料理の何処に不満が出るというのか、彼女にとっては不思議でならない。
「…………むぐ?」
メインである餅を口に入れて噛み千切る。否、そうしようとして箸を引くと切れずに伸びた。一度箸を離し、また口元から引っ張る。切れない。
「ぐむむ!?」
「あ、アインス?そんなんむきにならんと……。」
主の声も届かず、同じ動作を続けるアインス。
結局、ようやく噛み切れた頃にはお椀の中の具は伸ばされた餅に総て埋まってしまっていたのだった。
【着物】
「これがお正月の正装なのですか?」
「んー、正確にはお正月のっちゅう訳でもないんやけど、まぁ、そやね。」
着せられた着物をクルクルと回りながら姿見で見つめるアインスにはやてが応える。
「あー、でもせっかくやからもちょっとうなじ魅せよか。」
「これ以上ですか?」
「せや、それならクロノ君も悩殺やで!」
「く、クロノに見せるのですか!?」
「なんや見せるつもり無かったん?というか、着物着て皆で初詣いく言うたやん。」
「それはそうですが、え、あ、クロノに、えぇ!?」
「もー、そなに色っぽいのに可愛いなアインスわー。」
「や、やっぱりダメです!」
「良いではないか良いではないか。」
「あ、あるじー!?」
【羽根突き】
カンカンカンカンカンカンカンカンカンカン。
小気味の良い音が八神家の庭に響く。
打ち上げられた羽をシグナムが打ち下ろし流星の如く撃ちだす、が、その高速弾を見失うこともなく、野球のピッチャー返しのような返球を見せるアインス。一瞬で眼前に迫った弾丸を、しかしシグナムは持ち前の超人的反射で返す。高速のラリーは始まって10分近くたつが終わりを見せる気配すら無い。
音の元である二人をヴィータやツヴァイ、ナハトは大いにはしゃぎながら観戦していた。
「すげーな!これが羽根突きか!燃えるなぁ!ザフィーラ、次はあたしとやろうぜ!」
「あぁ、ずるいです私もしたいです~!」
「なーなー!」
言ってる間にもラリーは続く。
そんな庭先で行われる高速戦闘を呆然と眺めながらはやてはポツリと呟いた。
「私が知ってるのと違う……。」
【罰ゲーム】
「うぅ~。」
「ふぅ。私の勝ちだな。」
結局30分近く打ち合いスタミナが切れたアインスが最後に空振りをしてラリーは終わりを告げた。アタッカーとしても将としてもプライド守ったシグナムは満足そうに汗を拭いながら、縁側に置いてあった筆をとり、ニヤリと笑う。
「さぁ、覚悟はいいか?」
「シグナムが悪い顔してるです!」
「ありゃあ完璧に悪人だぜ。」
「うるさいぞ、お前ら。」
外野を一睨みして筆を構えなおす。
「よ、よし来い将……!」
言いながらギュッと目を瞑り、プルプルと震えるアインス。
「…………。」
「さぁ来い将。」
「…………。」
「覚悟は出来ている、一思いにやってくれ!」
「…………。」
「じ、焦らすな将、は、はやく……。」
「…………。」
「うぅ……はやくやってくれ……。」
ずっと目を瞑ったまま徐々に泣きそうな声になるアインスをしばらく眺めて、よし、と満足したシグナムは完全に彼女の不意を付くタイミングで頬に筆を走らせる。
「ひゃ!?」
生暖かい感触に可愛らしい悲鳴が上がる。
そして、残されたのは左右の頬に三本ずつ刻まれた墨の跡。
「ぶははは、三本髭かよ!?」
「アインスネコさんです~。」
「うぅぅ…………。」
ケラケラ笑う末っ子たちと、手鏡を見ながら涙目になるアインスを眺め、またシグナムは満足そうに笑うのであった。
【お年玉】
「はーい、それじゃあツヴァイとナハトにお年玉やでー。」
「わーいですー!」
「なー!」
お年玉の一言に喜びの声を上げながらはやてに駆け寄る二人。もらったぽち袋を掲げるようにはしゃぎまわる。
そんな二人を見ながら微笑む家族に、はやては朗らかな笑顔で続けた。
「はい、今年はみんなにもお年玉があります!」
「え、いや、主、流石にそれは……。」
「というか、むしろ私達から今からはやてちゃんに渡そうとしてたんですけど……。」
「えーなになに?はやて何くれるの!?」
「ヴィータお前な……。」
流石に主とはいえこの少女からお年玉をもらうわけにはいかないと首を振るが、構わずはやては何か握った手を差し出し、皆反射的にそれを受け取る。
「これは……?」
ゴム特有の感触と、キラキラした見た目。俗に言うスーパーボールだ。
「お年玉やー。」
「えー!?」
「はは、なるほど。確かにそうですな。」
「もう、びっくりしちゃいましたよ。ねぇアインス……アインス?」
定番の小ネタを披露し笑う彼女らの横で、手の平にある玉をじっと見つめる。
手の上で転がしてフローリングの床に落とす。当然跳ね上がり手元へと返ってきた玉をキャッチ。
パァッと花が咲いたように笑みを浮かべるアインス。
また落とす。跳ね返る。キャッチ。落とす。跳ねる。キャッチ。落とす。跳ねて跳ねて跳ねて3回バウンドさせてキャッチ。実に、楽しそうである。
「あかん、ギャグやったって言えんくなってしもた。」
「満足そうですし、アレはあれで良いのではないでしょうか。」
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